有事の円買い、なぜ起きない? 円安継続の背景とビットコイン(BTC)の意外な役割
有事の際の伝統的な安全資産、日本円。だが、その神話は今、揺らいでいる。地政学的リスクが高まる中、かつてのように「有事の円買い」が起きず、円安トレンドが続く背景には何があるのか?そして、その隙間を埋めるように台頭してきたのが、ビットコインをはじめとする仮想通貨だ。
円安継続の3つの要因
第一に、日米の金利差の圧倒的な開きだ。FRBの高金利政策が続く一方、日本銀行の緩和的なスタンスは変わらず、資金はより高い利回りを求めてドルへと流れる。第二に、構造的な要因。日本の経常収支の悪化と、企業の海外直接投資の増加が、持続的な円売り圧力となっている。第三は、市場心理の変化。かつての「安全資産」としての円への信頼が、長期デフレと財政赤字の拡大によって蝕まれ始めた。
デジタルゴールドの台頭
この空白を埋めるように、新たな「リスクオフ」先として注目を集めているのがビットコインだ。国境を越え、中央銀行の政策に左右されないその特性は、特に自国通貨に不安を抱える新興国や、インフレに悩む地域で「デジタル退蔵手段」としての需要を生んでいる。伝統的な金融システムの外に位置するため、特定国の経済危機や金融制裁の影響を直接受けにくいという側面も評価されている。一部の機関投資家のポートフォリオにおいて、金や国債の一部代替として組み込まれ始めている現実は無視できない。
新旧の安全資産、パラダイムシフト
結論は明らかだ。世界のマクロ経済構造と地政学リスクの様相が変容する中、安全資産の定義そのものがアップデートされつつある。円の独走時代は終わり、多極化の時代に入った。ビットコインは、その新たな極の一つとして、従来の金融アナリストたちが鼻で笑っていた「コンピューター上のおもちゃ」から、無視できないマクロ経済の変数へと変貌を遂げた。次なる金融危機で真っ先に買われるのは、果たして円か、それともBTCか——伝統的な金融の教科書は、この問いにまだ答えを書いていない。
ドル/円、157円台で高止まり
3月4日の東京市場でドル/円は157円台前半から後半でもみ合った。短期的には156円台後半が支持線として意識され、上値は158円近辺が抵抗帯となっている。日足では高値を切り上げる形状を維持し、RSIは過熱圏に達していない。上昇三角形を形成しているとの見方もあり、158円を明確に上抜ければ160円を試す展開も想定される。
円高が進まない背景には、日本のマクロ環境がある。ホルムズ海峡封鎖に伴う原油価格上昇は、日本の交易条件を悪化させるとの見方が強い。エネルギー輸入依存度が高い日本では、原油高は経常収支悪化観測を通じて円売り圧力となる。加えて、日銀は地政学リスクの高まりを受けて金融政策の正常化を急がないとの観測が広がっている。利上げ期待が後退すれば日米金利差は維持されやすく、円の上値を抑える。
高市政権も市場動向を強い緊張感をもって注視する姿勢を示しているが、為替の基調を左右するのは金利差とエネルギー価格という構造要因である。為替介入への警戒感はあるものの、現局面ではドル需要の強さが勝っている。
米国政治とドル需要の再評価
今回の局面で特徴的なのは、「有事の円買い」よりも「有事のドル買い」が優勢となっている点だ。米国では堅調な経済指標が続き、インフレ再加速への警戒も残る。市場では政策金利が高水準で維持されるとの見方が根強く、ドルは安全資産かつ高金利通貨として選好されやすい。
中東情勢を巡る政治的緊張が高まる中でも、米国債市場の流動性と規模は依然として世界最大級であり、逃避資金の受け皿としての機能は揺らいでいない。結果として、リスク回避局面でまずドルが買われ、その後に他資産へ波及する構図が鮮明になっている。
中東経済・金融専門研究者の齋藤純氏はXで、「中東戦火拡大でリスク資産回避、安全資産(米国債中心)に資金集中。価格急騰(利回り低下)。質への逃避が強まっている」と指摘した。
【金融】中東での戦火拡大を受け、投資家がリスク資産から回避し、安全資産とされる債券に資金が集中している。米国債などを中心に価格が急騰(利回りは低下)。情勢の先行き不透明感から「質への逃避」が強まっており、金融市場全体に警戒感が広がっている。https://t.co/NN7M0Pifjx
— 齋藤純 Jun Saito (@jurian777) March 2, 2026この構造は、円が伝統的な安全資産として評価されてきた時代との大きな違いである。貿易黒字と低インフレを背景に円が買われた過去とは異なり、現在はエネルギー価格と金利差が主導する相場環境に変化している。
BTC/JPYは為替と株式に連動
BTC/JPYは足元で上値の重い展開となっている。ボリンジャーバンド下限付近で下げ止まる場面もあるが、20日移動平均線が上値抵抗として意識される。MACDはゼロライン近辺で推移し、方向感は限定的だ。短期的には為替の変動が円建て価格に影響を与えている。
地政学リスク下でも、ビットコインは金のような典型的安全資産としては機能していない。仮想通貨投資家はリスク回避局面でポジションを圧縮し、流動性の高いドルやステーブルコインへ資金を移す動きが目立つ。米国ではビットコインを国家戦略資産として位置付ける議論も続くが、短期的な価格形成では依然として株式市場との相関が意識されやすい。
為替が円安基調を維持する中で、BTC/JPYはドル建て価格とドル/円の双方の影響を受ける二重構造にある。したがって、仮想通貨市場を分析する際には、ビットコイン単体の需給だけでなく、日米金融政策と地政学リスクを含むマクロ環境を同時に捉える必要がある。