野村証券、仮想通貨取引で損失計上-金融機関のデジタル資産参入に影

大手金融機関の仮想通貨進出が早くもつまずきを見せている。野村ホールディングスがデジタル資産関連事業で予想外の損失を計上したことが明らかになった。
伝統的金融の壁を越える試み
銀行や証券会社がブロックチェーン領域に本格参入して数年。規制の壁を越え、顧客基盤を活かした展開が期待されていたが、現実は厳しい。野村のケースは、伝統的金融機関が仮想通貨市場のボラティリティに適応する難しさを浮き彫りにした。
リスク管理の新たな課題
仮想通貨市場は24時間365日取引が続き、価格変動が激しい。銀行が慣れ親しんだ市場とはリスクプロファイルが根本的に異なる。デリバティブやレバレッジ商品を含む仮想通貨関連商品の評価損失が、想定外の規模に膨らんだ可能性がある。
規制環境の不確実性
金融庁(FSA)をはじめとする各国規制当局は、仮想通貨取引に関するガイドラインを整備中だ。その過程で、金融機関の取引ポジションに影響を与える規制変更が発生するリスクは常につきまとう。
「銀行が仮想通貨で損失?伝統金融がデジタル時代の波にもがく様は、スーツ姿でサーフィンするようなものだ-理論はわかっていても、実際の波は予想よりずっと冷たく、荒い。」
それでも前進は止まらない。三菱UFJフィナンシャル・グループやSBIホールディングスなど、他の国内金融グループも仮想通貨関連事業を拡大中。短期の損失は、長期的なデジタルトランスフォーメーションのほんの一コマに過ぎない可能性がある。
仮想通貨市場は成熟期へ向かっている-金融機関の参入と撤退、利益と損失が交錯する中で、新たな金融生態系が形作られつつある。
48時間の隔たり
1月27日、ニューヨークにて、Laser Digitalは米国通貨監督庁(OCC)に対し、連邦認可のナショナルトラストバンク設立を申請した。同子会社は米国の機関投資家向けにカストディ、現物取引、ステーキングサービスを提供する方針。同社のスティーブ・アシュリー会長は、米国を「世界で最も重要な金融市場」と表現した。
一方、東京では30日、最高財務責任者の森内 浩之氏が野村の四半期決算説明会でアナリストに対し「仮想通貨に関するポジションを減らし、リスク管理を強化した」と述べた。Laser Digitalは10月~12月期に損失を出し、同社グループの欧州事業の業績を押し下げた。
こうした対比は目を引くが、よく見ればこれは突発的な方針転換ではなく意図的かつ繰り返される戦略であることが分かる。
これが初めてではない
Laser Digitalが野村の欧州業績を押し下げたのは、今回が初めてではない。2025年10月、森内氏は「Laser Digitalの業績は4月~6月期の欧州事業の損失要因となった」と認めていた。当時、野村は撤退ではなく拡大を選択した。Laser Digitalは並行して、機関投資家向けの国内仮想通貨取引ライセンス取得に向けて、金融庁(FSA)と事前協議に入っていた。
そして今回も同じパターンが再現された。10月~12月2025年期の損失を受け、ポジション管理をさらに強化しつつ、事業拡大の動きは一層加速している。
2本立て戦略
野村はLaser Digitalのもとで、明確に2つの事業を並行運営していると見られる。ひとつは自己勘定取引部門であり、仮想通貨の価格変動リスクを直接的に受け、複数の四半期で損失要因となった。「短期的な利益の変動を抑制するため、ポジションとリスクエクスポージャー(曝露)の管理を強化した」と森内氏は1月30日にアナリストへ説明した。
もう一方はインフラやライセンス関連の体制作りであり、四半期ごとの取引損益に左右されにくい長期的な投資戦略である。以下はその主な進捗のタイムラインである。
| 2022年9月21日 | Laser Digital Holdings AG、スイスで設立 | 🔵 インフラ |
| 2023年8月1日 | ドバイのVARAから仮想通貨ビジネスのフルライセンス取得 | 🔵 インフラ |
| 2025年4月~6月 | Laser Digitalが欧州事業の損失要因に | 🔴 取引損失 |
| 2025年8月6日 | VARAパイロット枠組みに基づく初の規制下OTC仮想通貨デリバティブライセンス取得 | 🔵 インフラ |
| 2025年10月3日 | 日本の機関投資家向け取引ライセンスに関し金融庁との事前協議を公表 | 🔵 インフラ |
| 2025年10月~12月 | Laser Digitalが再度損失計上、ポジション削減を実施 | 🔴 取引損失 |
| 2026年1月22日 | トークン化ビットコイン分散型イールドファンドをローンチ | 🔵 インフラ |
| 2026年1月28日 | 米国OCCにナショナルトラストバンク免許を申請 | 🔵 インフラ |
| 2026年1月30日 | 決算説明会で損失とリスク強化策を発表 | 🔴 取引損失 |
野村経営陣のメッセージは明確だ。取引損失はリスク管理上の問題に過ぎず、機関投資家インフラの構築は不調な四半期でも止めることのできない戦略的必須事項である。
異なる対象ごとに異なるメッセージ
この一見した矛盾は、野村が複数の異なるステークホルダーに同時に発信している現実も反映している。OCCへの申請や金融庁との協議は、規制当局や機関投資家層を対象とし、仮想通貨が金融で果たす長期的な役割への自信を示している。
Laser Digitalのスティーブ・アシュリー会長兼共同創業者は、米国での申請について「米国は世界で最も重要な金融市場であり、次なるデジタル金融の章は、こうした厳格かつ永続的な基準で運営する企業によって記されると考える」と述べた。
一方、決算説明会は株主やアナリストを対象としており、短期的な変動を適切に管理している安心感を与える目的がある。森内氏が強調した「厳格なポジション管理」と「リスクエクスポージャー抑制」は、まさにそのためである。
全体像
こうしたアプローチは野村だけではない。日本第2位の証券会社である大和証券も2025年後半にビットコインやイーサリアムを担保とする円建てローンサービスを始めた。金融庁は投信法の下で仮想通貨ETFの解禁を準備中と報じられ、早ければ2028年にも商品が上場する可能性がある。野村およびSBIホールディングスはこうしたファンド組成への関心を示している。
野村およびLaser Digitalが2024年に実施した調査によれば、機関投資家の半数超が今後3年以内に仮想通貨へ資金配分を予定し、割合は多くの場合ポートフォリオの2~5%程度とされる。株式や債券収益の手数料圧力に直面する伝統的な証券会社にとって、仮想通貨分野は多角化機会であり、競争上も不可欠な領域である。
したがって、パラドックスは表面上にすぎない。野村は仮想通貨から撤退するのではなく、業界でのリスクの取り方を見直しつつ、次のサイクル到来時に自らの地位を決定づける構造的投資を加速している。ライセンス戦略が功を奏すかは、ワシントンや東京などの規制当局の判断に委ねられる。しかしひとつ確かなのは、野村は傍観者になるつもりがまったくないということだ。